「安かろう、悪かろう」の典型物件で起こった犯罪
古い物件を悪いとは思わない。
むしろ個人的には好きである。
ただし、そこに温かみが感じられれば、である。
ただ朽ちていく途上の物件、手入れのない物件など、家への愛情が感じられないのがダメなのだ。
前回(安アパートの水漏れトラブルと呆れる住人実話)・前々回(安アパートの水漏れトラブルと呆れる大家実話)の記事で紹介したトラブル続きの古い安アパートは、まさにそんな物件だった。
上の階には頭がいかれたパンチパーマの中年ヒステリー女が住み、肝心の大家は無責任だし、とにかく仕事がデキない。
「安かろう、悪かろう」の典型とも言える物件として記憶されている。
さて天井からの盛大な水漏れと上階のヒステリー女、仕事の遅い無責任大家など、次々と現れる敵を何とかやり過ごしているうちに、水道管と天井の工事は終了した。
しかし「ようやく部屋に戻れる!うれしい!」とはならなかった。
すでにこのアパート全体に辟易していたのだ。
だがまさか、これ以上にダメ押しになる出来事が待っているとは思いもよらなかった…!
トラブル4・洗濯物を盗まれる!
我が家は一階だったので、天気の良い休日には外に出て物干し竿に洗濯物を干した。
物干しはリビングの大きな窓に面しており、また道路からも見えるので、ここで盗みを働こうとするバカはあまり居ない。
確実に私たちの留守を知らなければ、リスクが高すぎるからだ。
しかしほんの一瞬の隙をついて、洗濯物は盗まれた。
下着は外に干さないので、被害に遭ったのは彼のワイシャツや私のワンピース・ブラウス・スカートなどの洋服である。
それは私たちが5分ほど外出した隙に起こった。
そして家に帰ると、上の階の住人が何かを抱えて慌てて部屋に駆け込む後ろ姿が見え、バタバタガチャガチャという音が響いていた。
残念なことに私たちはこの時、洗濯物がなくなっていたことに気付かなかった。
ゼロになっていたので、逆に違和感を覚えなかったのだ。
だが少し経って「何かがおかしい」と気付き、彼に洗濯物を入れたか尋ねると、「…あっ!」という反応だった。
私たちはほぼ同時に上を見上げ、「まだ”朝の6時に朝の6時に朝の6時にキーッ”とか言ってんのかな?」と呟いた。
まず大家に連絡すると、案の定ぼーっとしている。
次に警察に連絡し、上の階の人が大いに怪しい旨を伝えたが、証拠もないのに踏み込めないと言われた。
どうやら盗んだもの勝ちらしい。
翌日、ヒステリー中年女が階段を降りてきた音を聞き、私は玄関のドアを開けてみた。
ヒステリー女はそれだけでビクッと跳ね上がり、階段を落ちそうになりながら降りてきた。
―おはようございます!
と私が大きな声で挨拶をすると、面白いほど目が泳いでいる。
―昨日、うちで洗濯物が盗まれましてねえ。警察がそちらに行くかもしれません!
と軽い冗談を言うと、ヒステリー女は言葉にならない言葉を発しながら、階段を駆け戻ろうとして躓いた。
ここにその動画を公開できないのが残念なほどの、漫画のごとき動揺の仕方だった。
これで確信を得た私は何度か同様のご挨拶で女を試してみたが、急にアホらしくなって引越す決意をした。
洗濯物を取り戻すことより、環境を変えて運気(なるものが本当に存在するのかは知らないが)を取り戻すことのほうが、はるかに大切なような気がしたのだ…。
レベルの低い場にいつまでも拘る理由はない。
自分まで落っこちてしまう前に、そんな場所にはサヨナラしたほうが有益だ。
物件の環境と雰囲気は嘘をつかない
「住めば都」という言葉ある。
15回の引越しを経ても、概ね同意できるフレーズだ。
だが、住めばどこでも都になるわけではない。
都レベルは、その物件の住人や大家の質に、大いに左右されることがあると知った。
物件選びの際には、家賃の安さだけに釣られないよう、要注意である。
特に「雰囲気」は嘘をつかない。
実体を伴わない曖昧な言葉だが、軽視しないことをお勧めする。