ミチカの引越し人生〜旅するようにおひっこし

特技は物件探し!18回の引越し経験者が綴るリアル引越しライフ

読んではいけない短編小説集~『お引っ越し』真梨幸子

      2023/02/27

 

「引越し」をテーマにした連作短編小説のご紹介

子どもの頃から本の虫、大学も文学部のミチカです。

趣味の読書では、一冊の小説を何度も繰り返し読み、心ゆくまで味わうことがあります。

でも、二度と読みたくない小説もあります。

タイトルは『お引っ越し』

真梨幸子氏による短編小説集で、「扉」「棚」「机」「箱」「壁」「紐」そして「解説」の七編から成ります。

たまたまこの作家さんを知らず、図書館でタイトルだけ見て借りてきたので、気付かなかったのです…これが一種のホラーだということに。

以下、肝心な部分のネタバレは避けていますので、安心してお読みください。

 

「扉」

まずトップバッターの「扉」がいきなり怖い! 一番怖い!

女性がマンションを内見しているシーンから始まりますが、転居の理由が何より嫌…。

現在住んでいる部屋の前の住人が、殺人犯であることに気付いてしまうのです。

事故物件には当たらないので、不動産会社には説明の義務がありません。

しかし事実を知ってしまった主人公は、いつかその男が自分の部屋に帰って来るのではないかという強迫観念に囚われます。

世の中には確実にこのような物件があるということを、改めて思い知らされました。

 

でも、本当に恐ろしいことは、新居候補のほうで起こります。

避難用扉の先にある狭いスペース。

本来なら「非常口」は、人の命が助かるために存在しますが、その先の蓋が開かないと起こることとは…。

 

避難経路というのは多いに越したことはありませんが、機能しないと単なる危険スポットにもなり得てしまうのですね。

外からしか開かない扉というのは恐ろしい。

我が家のベランダにも避難ハッチがあり、半年に一度必ず点検に来ます。

家の中に入られるので、どうしても煩わしく思いがちなのを反省しました。

 

 「棚」

「棚」は読んでいると、もどかしくてイライラして、息苦しくなってきます。

何に?―なかなか進まない引越し準備に!

私はこの編の主人公のように優柔不断ではありませんが、それでも思うように準備ができない焦りは毎回感じます。

気付くとあと何日、あと何時間、あと何分…

 

それにしても驚くのは、主人公が引越しをする理由です。

人間関係の整理のための引越し、というのは考えたことがありません…。

 

 「机」

「机」には怪しい引越し業者が登場します。

やたらとクレームが多いのは、ここに頼むと見積もり以上の料金をとられるし、荷物がしばしば紛失するからです。

明らかに盗みを働いている業者…こんな引越しセンターにモデルがないことを切に祈ります。

 

さて、盗んだと思しき大型冷蔵庫の中に入っていたものとは―?

この短編集の怖さは、幽霊などオカルト的なものに因るのではありません。一番怖いのは人間なのです…。

 

「箱」

「箱」はオフィス内の引越しに関する物語。

ここで怖いのは女のいじめ。

お局が、若い女性社員をいじめたおすのです。

主人公の荷物の箱が、故意に別の階に持ち運ばれ、紛失させられます。

最後まで見付からない一つの箱を必死に探す主人公、果たしてその中には何が…?

 

私はかつて女ばかりの職場で働いており、すぐ近くのビルにオフィスの引越しをしたことがあります。

女ばかり、和気あいあいと楽しく作業したことを思い出し、我が幸運が身に沁みました。

 

「壁」

「壁」に出てくるのは、一見典型的とも思える隣人トラブルです。

隣りに引越してきた夫婦の部屋から、夜な夜な悲鳴や騒音が聞こえてきます。

寝不足で神経が衰弱した男は、よかれと思ってある行動をとるのですが―。

 

隣人の生態と言うのは、引越してしばらく経たないと掴めません。

私の学生時代のアパートでは、隣りに優しい男の先輩が住んでいました。

が、一月ほどで気付いてしまいました、先輩には「彼氏」がいて、週末の夜にはそれはそれは濃密な時間を過ごしていることに…。

一度あまりの物音に思わず壁にキックを入れたところ、先輩は二度と私と目を合わせなくなりました。

それで済んで幸いだったなと思います。

 

 「紐」

「紐」は、グー○ル・ストリートビュー散歩好きの私には、腰の辺りからゾワゾワする物語でした。

主人公の住む物件は、第一話「扉」に登場するまさにその部屋です。

誰もいないはずの空間から聞こえてくる歌声、その声の主とは…?

 

まとめ

私がこの本を読み出して最初に感じたことは、この短編集に『お引っ越し』なんて、ちょっぴり楽しそうなタイトルを付けないでくれーっ!でした。

なにしろタイトルだけで借りてしまったので後悔しました、怖い話にはめっぽう弱いのに…。

しかも真梨さん、読者を追い詰めるのがとてもお上手!!

 

はたして皆さんは、この本を手に取ってみたくなったでしょうか?

気になる方は、夏に読まれることをお勧めしますよ。熱帯夜の暑さも忘れられることでしょう…。

 

でも、引越し前後に読むのだけは、やめておいた方がいいと思います。

もしそれでも読みたくなったなら、ぜひ「解説」から読み始めてください。

きっと涼しさは倍増するはずです。

 

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