私の引越し観をポジティブに変えた、旅するように引越す女性との出会い
転妻的理想の引越し観と現実
このサイトを開設するにあたり「旅するようにおひっこし」という副題を添えたが、実際のところ、転妻にとってこれはやや難題と言える。
そんなに軽やかに楽しげに引越せるケースはあまりない。
本音を言えば
「しょうがないからおひっこし」
「やれやれまたかよおひっこし」
「ウザイ!もうやだ!おひっこし」
など、ネガティブワードが際限なく出てきてしまう。
それでも引越す時の理想的な心の持ちようとして「旅するように」と形容してみたのだ。
旅がキライな人はあまりいないと思うから、ちょっと引越しがいいものに聞こえることを願いつつ。
ただ旅と決定的に違うのは、転妻は行先を自分では決められないことだ。
基本的には主人の会社からのお達しに従うしかない。
ところが、である。
「旅するようにおひっこし」というフレーズを地で行く女の子に会ったことがある。
旅するように引越すノリちゃんのこと
もう15年以上前のことだが、私が働いていた山形の事務所に、ちょっと年上の彼女が後輩として入ってきた。
「女の子」と書いたが、実際は保育園に通う子を持つママである。
しかし彼女は当時20代半ばと若かったし、小柄で目がパッチリしていて、まるで少女のような雰囲気があった。
彼女の名はノリコちゃん。
京都出身のノリちゃんだが、京都の閉鎖的な物の見方に反発心を持っていた。
「京都の人はな、京都が世界の中心と思い違いしたはる。
日本の中心ですらあらへんのにね。
京都に誇りを持ちすぎて、外の世界を知らんのよ、見ようともしいひん。」
(異論もあろうが私の意見ではないのであしからず。)
そんな周囲の環境に辟易したノリちゃんは、高校卒業と同時に京都を出て、働きながら二年単位で引越す暮らしを始めたそうだ。
一年目は上辺しか分からなくても、二年いると観察が深くなる。
気に入れば三年いることも。
そして引越す際は必ず、「行ったことのない都道府県に移る」というマイルールを決めていた。
私は山形でノリちゃんに出会ったが、その前は東京、またその前は金沢にいたと言う。
金沢、東京の次に山形を選ぶあたりが渋い。センスがいい。
ユニークな人だ。
子どもと二人で暮らしているのでシングルマザーかと思ったが、離婚も死別もしておらず、ご主人は京都に健在だったので驚いた。
とっくに新婚ではなくなっていたが、彼はノリちゃんにベタ惚れで、自由に「旅するように」引越して歩く妻をごく自然に受け入れていた。
さすがに子どもが小学校に上がったら二年おきに転校とはいかないから、今のうちに「旅」を楽しんでいるのだとノリちゃんは言う。
アゲイン、ユニークな夫婦である。
「知らない街に住むんは楽しいよね。」
ノリちゃんは、私も引越しの多い人生を歩んでいると知ると、そう言って嬉しそうに笑った。
本当に純粋に”新しい街に住む”ことを楽しんでいるようだ。
私にはなんだか、ノリちゃんが素敵な小説の主人公のように映った。
結婚していて子どもがいても、生きたいように生き、暮らしたいように暮らしているから。
それでちょっと現実離れしているように見えたのも事実だが、私の引越しに対するイメージが良いものに変わったのは間違いなく、旅するように引越すノリちゃんのおかげなのである。